東京地方裁判所 平成8年(ワ)23253号 判決 1998年11月19日
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一 本件請求
原告は、被告がNHK総合テレビジョンにおいて、平成八年六月八日午前八時三五分から放送した「生活ほっとモーニング『妻からの離縁状・突然の別れに戸惑う夫たち』」(本件番組という。)の内容が真実に反するものであり、原告はこれによりその名誉を毀損されるとともに、プライバシーの権利を侵害されたと主張して、被告に対し次の請求をしている。
一 不法行為による損害賠償請求として、慰謝料三〇〇万円と訴訟提起に伴う弁護士費用一一〇万円との合計四一〇万円及びこれに対する平成八年一二月二八日(本件訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うこと。
二 毀損された名誉の回復処分として、被告の放送するNHK総合テレビジョン「生活ほっとモーニング」土曜日放送の時間帯、又は同番組が終了していた場合には同番組と同じ時間帯にて、別紙一記載の文章を三分間読み上げることにより謝罪放送を放送すること。
三 放送法四条一項に基づき、本件番組について、被告の放送するNHK総合テレビジョン「生活ほっとモーニング」土曜日放送の時間帯、又は同番組が終了していた場合には同番組と同じ時間帯にて、別紙二記載の文章を四分間読み上げることにより訂正放送を放送すること。
第二 事案の概要
一 争いのない事実及び確実な証拠によって明らかに認められる事実
1 当事者
(一) 原告は、Aと平成五年二月二五日に調停離婚をした女性である。
(二) 被告は、公共の福祉のために、あまねく日本全国において受信できるように豊かで、かつ、良い放送番組による国内放送を行うこと等を目的として、放送法に基づき設立された法人である。
2 本件番組の概要
被告は、平成八年六月八日午前八時三五分から、NHK総合テレビジョンにおいて本件番組を放映した。
本件番組は、事前に収録された部分と、スタジオからの放送の部分とで構成されている。事前収録の部分では、中高年になってから離婚を経験した男女各二名が別々に登場し、同人らの発言や挿入されたナレーションにより各人の離婚の事例が紹介された。スタジオからの放送部分では、司会のアナウンサー二名(加賀美幸子及び藤井克典)及びゲスト三人(女優大谷直子、女優李麗仙、弁護士堀田力)が出演し、同人らはスタジオで事前収録部分の放映を見て、ゲストがそれぞれ感想や意見を述べ、あるいは離婚に関連した議論を行った。
Aは、右事前収録部分に出演し、同人と原告との離婚に関し語ったが、本件番組はAの顔にぼかしをかけずに同人の顔を映し出し、同人と原告との長男(長男という。)の素顔も放映した。しかし、Aは「五〇代の男性」で「大手企業の管理職」と紹介されたにとどまり、氏名や具体的職場は紹介されず、長男の氏名も明らかにされなかった。原告についてはその氏名、職業、職歴、住所及び出身地等は公表されず、本件番組を通じてその顔は映されていなかった。また、Aと原告らの家族写真が画面に映されたが、A以外の者の顔の部分にはぼかしがかけられた。Aの発言及びこれに関するナレーションは、おおむね、原告がある日突然離婚の申し出をして家を出た、Aは今でも離婚の原因が分からないという趣旨であった。
本件番組の画面の概要(映像や画面上の字幕)及び音声(出演者の発言やナレーション)を文字として復元したものは別紙三のとおりである(甲第六三号証、乙第一号証)。
3 原告に対する取材の有無等
本件番組の制作に当たって、被告は原告に対して取材を実施せず、放映をすることについての連絡もしなかった。
二 争点及び争点に関する当事者の主張
1 争点一
本件番組は原告の名誉を毀損したか、否か。
(一) 原告の主張
(1) 本件番組は、視聴者に対し、原告はその人間性に問題があるとの印象を与えた。
本件番組は、冒頭にAの姿を映し、ナレーターが、「危機は突然やってくる。」「二一年目のある朝、突然妻から離婚宣言された。」「なぜ妻は離婚に踏み切ったのか、今でも思い当たる節がない。」と断定した。そのため、視聴者は、原告のAに対する「突然の離婚宣言」が真実存在したとの前提で本件番組を見た。
その後登場したAは、原告が「突然離婚宣言して家を出ていった妻、些細なことで夫を追いつめていった妻、夫が気付かないうちに離婚の準備を着々としていた妻」等と、原告を誹謗、中傷する発言をした。これにより視聴者は原告が「ひどい妻」であるとの印象を抱いた。
具体的には、Aは、「八年前から妻との関係がギクシャクしてきた。」「忙しい部署に配属された時期でもあり帰宅が遅くなった。」「それを妻に説明した。」「しかし、その説明に妻は納得せず、いら立ちを募らせた。」旨語り、また、何度も話し合いをしたが、その度に妻の言い分が繰り返された、変化に早く気付いても離婚せずには済まなかった、気が付いたときにすでに妻のシナリオができており、離婚のための十分な準備をしていろいろなアクションをしていたという感じが今でもする、という趣旨の発言もしている。これらの発言により、視聴者は、原告について、多忙なサラリーマンの夫の状況を理解せず、誠心誠意努力してきた夫を無視して計画的に着々と離婚を準備する妻であると理解した。
また、本件番組では、「夫の知らない離婚のシナリオ」等と視聴者に対し強烈な印象を与える字幕が出され、かつ「別れの法則」なるものを紹介し、離婚を準備する妻として銀行預金通帳を持つ妻のイラスト画等を見せたため、視聴者の中には、原告が計画的に準備して財産を持っていってしまったと誤解した者が相当いた。
さらに、Aが婚姻生活のエピソードとして語った話として、同人が庭ばさみを片付けないで放置したことを原告が咎めたという出来事を紹介し、なぜこんなに原告が腹を立てるか分からなかった旨の発言をして、これによって、視聴者は原告が八つ当たりをする人間、ヒステリーを起こす人間であるとの印象をもった。
仮に、Aが同人の心情や認識を語ったのだとしても、視聴者はその語られた内容が離婚の経緯や原因たる事実であると受け止め、原告につき前記のような各印象を抱いた。
(2) 本件番組においては、A及び長男が素顔のままで出演した。これによって、原告の家族関係を知る者は、本件番組を見て原告の離婚が紹介されているとすぐに分かった。原告とAとが知り合ったAの職場の者や、原告ら夫婦の居住地の周囲に住んでいた者は原告とAの双方を知っているし、原告はかつて東京都内で教員をしており、現在は自宅で学習塾を経営しており、所属する全国組織の関係者が原告宅に来ることが多く、原告の家族関係を知る者は全国に及んでいる。また、原告の塾の生徒や保護者にも原告の離婚のことであると分かってしまった。
(二) 被告の主張
(1) 本件番組は、Aの離婚に関する心情及び認識を明らかにしたにすぎない。右の心情等及びその前提としてAが語った夫婦間の出来事は、原告を誹謗、中傷するものではなく、視聴者に対し原告が「ひどい妻」であるとか、その人間性に問題があるとの印象を与えてはいない。むしろ妻の気持ちの変化に気付かず離婚されてしまった男性像を印象づけたにすぎない。
(2) 本件番組では、Aについては素顔は映したが実名は出さず、五〇代で大手企業の管理職であると紹介したのみである。長男についても顔は映したが大学生とのみ紹介している。原告に関しては氏名、職業及び容姿・容貌等人物を特定しうる要因となる情報を一切開示していない。放映した家族の写真についてもA以外の顔にはぼかしを入れている。したがって、番組外で原告のことを知っており、かつA又はその長男の顔を見てAの元の妻が原告であると判断できた者のみが、原告の離婚の話であると認識したのであり、そのような者は原告の離婚の事実をすでに知っていたはずである。
2 争点二
本件番組が放映されたことによって、原告のプライバシーの権利が侵害されたか、否か。
(一) 原告の主張
(1) 本件番組では、Aが同人と原告との離婚に至る経緯や原因を語っている。Aが同人の心情や認識を語っている部分もあるが、心情や認識を語るとしても、それは具体的な離婚に至る経緯や原因の事実を摘示しながら語られており、心情や認識と具体的事実とを切り離すことはできず、視聴者はAが語った右の心情等も事実であると判断してしまった。また、Aは、原告との婚姻生活における日常的な出来事を語り、本件番組は右出来事が離婚につながったものとして放送されているので、視聴者には右出来事も離婚に至る経緯や原因の事実と受け取られた。ナレーションもAの心情や認識を要約したコメントとはいえず、離婚に至る経緯や原因を事実として断定し、視聴者をしてその内容が事実であると確信せしめた。結果として、本件番組により、原告の離婚の事実及び離婚の経緯が公表され、原告のプライバシーの権利が侵害された。
仮に本件番組においてAの心情や認識のみが放送されたにすぎなかったとしても、右心情や認識は原告のプライバシーに関わるものである。
(2) 前記1(一)(2)に掲げたとおり、原告の家族関係を知る者は、本件番組で紹介された離婚事例が原告とAとのものであると分かったのであり、原告の家族関係を知る者は全国に及んでいる。
(3) 中高年女性が明確な理由なく離婚を申し出る事実は、既に一〇年以上前から社会的状況として語られており、本件番組の内容が今の時代に本当に意味のあるものか否かは疑問である。しかも、本件番組は、「突然の離婚宣告」というセンセーショナルな題名を掲げており、ゲストの発言も表面的な評価や茶化した発言が多く、真剣に中高年の離婚を考える番組とはいえない。
仮に本件番組が、中高年の離婚を考えることを目的とした、社会的に意義のある番組であるとしても、離婚をした個人が特定される必要はまったくない。実際にA以外の出演者にはぼかしがかけられていたのであり、Aと長男を素顔で出演させたことの違法性が阻却されることはない。
(二) 被告の主張
(1) 本件番組は、特定された原告のプライバシーに関する特段の事実を明らかにしていない。
Aは本件番組において、同人と原告との離婚に関する心情及び認識を語っている。本件番組としてもAの心情及び認識を放送したのみであり、原告とAとの離婚の具体的経緯及び原因を公表してはいない。Aが心情等を語った際に、その前提として原告との夫婦間における日常的な出来事に触れているが、それらは日常生活で起こりうる一般的出来事であり、また、離婚に至った要因として明示されてはいないので、公開されることで心理的負担、不安を覚えるものではない。
(2) 前記1(二)(2)に掲げたとおり、本件番組は匿名放送に終始している。したがって、番組外で原告のことを知っており、かつA又はその長男の顔を見てAの元の妻が原告であると判断することができた者以外は、原告の離婚の話が扱われたと認識しえず、本件番組の放送により原告に関する事柄が不特定多数の人間が認識しうる状態になったとはいえない。また、本件番組を見て、Aの元の妻が原告であると判断することができた者は、原告の離婚の事実を既に知っていたと認められる。したがって、本件番組が、原告の離婚の事実を公表して原告のプライバシーの権利をを侵害したとはいえない。
(3) 仮に本件番組が原告の何らかのプライバシーにわたる事柄を公にしたとしても、本件番組は、近年増加している中高年の離婚という社会一般の関心事に係る事項をテーマとして取り上げ、男女各二名につき離婚に直面した際の各人の心情、認識を紹介して、これを参考に中高年夫婦が離婚の危機を乗り越える方策等を検討し、視聴者の家庭生活の参考にしてもらうことを目的としており、正当かつ社会的に意義があるものである。更に、番組の内容に原告に対する誹謗、中傷は含まれておらず、Aと離婚したのが原告であると認識しうるのは限られた範囲の者であることなどを考慮すれば、本件番組は表現の自由の観点から保護されるべきであり、原告のプライバシーの権利を違法に侵害するものではない。
3 争点三
原告は、本件番組によって真実でない放送をされたという理由によって、その放送により権利の侵害を受けた者といえるか、否か。
(一) 原告の主張
(1) 本件番組は、原告とAとの離婚に至る経緯及び原因を事実として紹介しており、単に離婚に関するAの心情や認識を語ったものであるとはいえない。したがって、本件番組の内容は以下の五点が真実に反するものであり、原告はその放送をされたことにより権利を侵害された者であるから、放送法四条一項の規定に基づき、訂正放送を求めることができるというべきである。
<1> Aは、原告とAとの夫婦仲が悪化したのは本件番組放映日の八年前であり、その原因はAが仕事において忙しい部所に配属されて帰宅が遅くなったことに対し原告がいら立ちを募らせたことである、と述べている。しかし、原告とAとの仲はそれ以前から悪化していた。その原因はAが幼児的、自己中心的であり、原告がそのようなAとの生活に耐えられなかったことにあった。Aが言うところの夫婦仲が悪化した時期には、Aは単身赴任中であり、Aの右発言は真実たりえない。
<2> 結婚二一年目、すなわち平成四年のある朝に、原告がAに対し突然離婚を宣告したことはない。原告は平成元年一一月の時点ですでにAに対し離婚の申し出をしていた。
<3> 原告はAの知らないところで着々と離婚の準備をしてはいない。確かに原告は離婚に関して法律相談等に行き、アドバイスを受け、身辺整理のための行動はとっていたが、Aは原告の右行動を認識していた。
<4> Aは、事態が深刻であると分からなかったと述べている。しかし、原告が離婚を決意して以来、原告はAに対し離婚したいことを伝えてきた。そして原告は精神的に不安定になってカウンセリングに行き、Aもまたカウンセリングを受けるなど事態は深刻であった。
<5> Aは、被告から本件番組のための取材を受けた時点でも、原告がなぜAとの離婚を望んだのか分からないと述べ、本件番組全体としてもそれが真実として扱われている。しかし、原告は、離婚の申し出をなした際、Aに対し離婚を望む理由を告げており、離婚調停にも原告の考えを記した書面が提出され、平成四年五月二八日に原告が家を出たときのA宛の置手紙にも、原告が離婚を求める理由を書いているのであって、Aは当然に原告が離婚を求める理由を認識していた。
(2) 仮に、右の<1>ないし<5>の内容がAの心情や認識を語ったものであるとしても、Aは現実には右各発言のとおりには認識していなかったのであるから、やはり本件番組の内容は真実でない。
(二) 被告の主張
前記1(二)(1)に掲げたとおり、本件番組では原告とAとの離婚に関するAの心情、認識を紹介したのみである。そして、本件番組ではAの心情、認識をありのままに放送しており、真実でない認識等を放送してはいない。Aの認識等の対象は、夫婦の結びつきに関する極めて主観的な事柄であり、Aの妻であった原告の認識が、本件番組で紹介されたAの認識と異なるからといって、本件番組の内容が真実でないことにはならない。
また、本件番組は、原告の名誉を毀損しておらず、プライバシーの権利も侵害していないから、原告は本件番組の放送により権利を侵害された者に当たるとはいえず、放送法四条一項の規定に基づいて訂正放送を求めることはできない。
4 争点四
原告に生じた損害の有無及びその額。
(一) 原告の主張
原告が被告の不法行為により被った損害は、前記第一の一に掲げたとおりである。
(二) 被告の主張
原告の右主張は争う。
三 証拠関係(省略)
第三 争点に対する判断
一 争点一について
1 テレビジョン(テレビという。)放送においては、視聴者は通常の場合、その内容を反復して咀嚼するものではなく、連続的に流される映像と音声を瞬時に受けとめて内容を把握するから、テレビ放送が他人の名誉を毀損したといえるかどうかは、一般の視聴者が当該放送を通常の注意をもって一見した場合に、当該放送内容から受けるであろう印象を基準として社会通念に基づき判断すべきである。そして、当該放送がニュース番組のように単なる事実報道を目的とするものではなく、特定の問題を取り上げて様々な視点から検討し、あるいは視聴者に対し当該問題に関する情報を提供しようとする番組である場合には、右の判断を行うに当たっては、当該放送内容から窺われる当該放送の趣旨、目的も踏まえつつ、個別の摘示や表現内容及び方法に過度にとらわれることなく、当該放送内容を総合的に評価する必要があるというべきである。
2 そこで、右の観点から、本件放送が原告の人間性に問題があるとの印象を与えて、その社会的評価を低下させたと認められるかについて検討する。
証拠(甲第六三号証、乙第一号証)によれば、本件番組では、Aの妻(前記のとおり、本件番組では、原告についてその氏名を出さずに、単に「妻」と表現している。以下、妻という。)がAに対し突然離婚宣言をしたとの表現が用いられ、Aが会社で忙しい部署に配属されて帰宅時間が深夜になることが増え始めたころに夫婦間の関係がぎくしゃくしてきた、Aの説得にもかかわらず、妻はいら立ちを募らせていき、Aの行動ひとつひとつに細かく注文を付けるようになったという趣旨のナレーションが流されているのをはじめ、妻が機嫌が悪く夕食後に一人で和室にこもってしまった、あるいはAが食事の席に着くと妻が二階に消えた等というAの日記の記述を紹介し、さらには、Aの発言やナレーションの中で、妻がちょっとしたことに腹を立てた、あるいは話し合いの度に繰り返される妻の言い分は夫には些細なことにしか聞こえなかったという表現が用いられ、些細なことで立腹したことの例として、Aが庭仕事に使った庭ばさみを翌日まで放置していたのを妻が厳しく注意した出来事をAが紹介していることが認められる。そして、本件番組では、Aが録画場面において素顔で登場して話をし、これに沿ったナレーションが挿入されているのであるから、一般の視聴者は、Aが語った妻の各行動や、妻からの突然の離婚宣言が、真実存在したものと認識したということができる。
しかし、前掲証拠によれば、同時に本件番組では、Aに対し些細なことで腹を立てた妻の態度は、Aに対し不満を感じている妻がAに向け出していたメッセージであり、Aがそのことに気付かなかったのだと同人が現在感じていることが、同人の発言や司会者のコメントで明らかにされており、話し合いの際の妻の言い分が些細なことにしか聞こえなかったとの箇所では、妻が夫であるAに伝えたいメッセージがあったはずで、話し合いの際に妻がその言い分を述べたが、最後までAは妻の本心を理解することができず、すまなかったと思う旨のAの感想も述べられていて、司会のアナウンサーが、妻の出すメッセージの意味を見逃していたことが夫婦関係を悪化させたとAが感じている旨を紹介していること、また、A自身、離婚の原因が妻にあるという趣旨の発言や、妻を非難する趣旨の発言をしておらず、司会者の発言やナレーションにもそのような内容のものは存在しないことが認められる。
そうすると、本件番組全体を見た視聴者は、Aの離婚に関し、初めはAが忙しい部署に配属され帰宅が遅くなったことにAの妻が不満をもつようになり、Aに対し不機嫌な態度を示したり、些細なことで立腹するようになったが、そこには現状に不満を抱いている妻のメッセージが込められており、Aがそのメッセージに気が付かなかったことが原因となって妻がさらに不満を増加させ、それがため婚姻関係が悪化し、ついに妻が、Aにとっては突然と思える状況で離婚を宣言するに至ったものと認識するのが一般的といえる。そして、長年共に暮らしている夫婦間においては、一方配偶者が他方に対し些細な事柄で腹を立てることは得てして生じる事態であり、一般人は、そのように些細なことで立腹した配偶者の人間性を疑うようなことはないと考えられるのであって、本件番組の視聴者は、妻がいら立ちを募らせ、些細なことで立腹したことを事実として受けとめ、あるいは、妻がAにとって突然と思える状況で離婚を宣言したと認識したとしても、それがために妻が「ひどい妻」で人間性に問題があるとの印象を受けるとはいえない。
加えて、前掲証拠によれば、本件番組では、番組冒頭の事前収録部分や、それに続くスタジオからの放送部分における司会者の発言によって、同番組の趣旨は、この一〇年間で四〇代以上の夫婦の離婚が急激に増えており、そのような離婚には、妻が夫に対し離婚を申し出て、夫はその申し出の理由が分からない事例が多いという、現代の社会現象を踏まえて、夫は何に気付けば離婚に至らなかったのかを考えることにある旨が明示されていることが認められるから、一般の視聴者は、右の趣旨を理解した上で、Aが登場して自己の離婚体験を語る事前収録部分を見ることを考慮すれば、妻が発していたメッセージをAが理解し得なかったことが、Aの離婚の事例において最も重要な事実であると認識したことが容易に推認できるところである。
更に、本件番組において、原告についてはその容貌を映しておらず、氏名等の個人的情報も明らかにしていないのであり、Aについても氏名を出していないことから、本件番組の視聴者の殆どは、原告やAを知らないため、妻が原告であると認識しえなかったと認められ、逆に、妻が原告であると認識しえたのは極めて限られた範囲の視聴者であったものと推認するに難くない。
3 以上によれば、本件番組は、一般の視聴者に対し、原告が人間性に問題のある人物であるとの印象を与えたとはいえず、したがってまた、原告の社会的評価を低下させたともいうことはできない。もっとも、前掲証拠によれば、本件番組のゲストの一人が、Aが登場した事前収録部分を見た後に、「はさみ出してるだけで、そんないちいち怒るなんていうのはね、単に八つ当たりとかね(中略)そんな喧嘩するなんて恐ろしい世界ですよね。」と発言したことが認められるが、同人の同番組における発言を全体としてみれば、右の発言は、意思の疎通が図れなくなった夫婦は不幸であるとの印象を述べたにすぎないものと理解できるのであって、右の発言をもって本件番組が原告の人間性を非難していると認めることはできない。
4 原告は、本件番組は原告がAの知らないところで着々と離婚を準備していたとの印象を視聴者に与えたと主張する。確かに、前掲証拠によれば、本件番組では、Aのインタビュー場面で「夫の知らない離婚のシナリオ」という字幕が画面上に出る場面があることが認められ、これだけを見ると、原告が主張するような印象を視聴者に与えかねない嫌いはあるものの、右場面でのAの発言は、要するに自分が妻の本当の気持ちを理解できないうちに、妻は離婚という重大な決断(Aは「準備」の語を「決断」と言い直している。)に向けて様々な行動をとっていたのだと現在は認識しているという内容であると理解されること、また、本件番組では、原告がAに気付かれないうちに周到に離婚の準備を進めていたことを含意する表現は用いられていないことが認められる。また、Aが登場した事前収録部分に続くスタジオからの放送部分で、「別れの法則」を紹介し、その中で預金通帳を持つ女性のイラスト画を示していることも認められるが、この「別れの法則」は「アンカップリング」という書物において、多くの別れたカップルの調査をなし、別れの過程には一般的な法則があることが指摘されているので、その法則として、司会者のアナウンサーが紹介したものであって、視聴者は、前記のイラスト画に描かれた預金通帳を持つ女性が原告を表すとか、原告も預金通帳をもって家を出ていったなどと考えるものではないことは明らかである。
したがって、本件番組は、一般の視聴者に対し、原告がAに隠れて離婚の準備を進めていたとの印象を与えるとまでは認められない。
5 なお、原告は、本件番組を視聴した者及び本件番組の内容を第三者から聞いた者から、原告が人間性に問題があるとの印象を受けた旨の意見が原告のもとに寄せられており、直接その旨指摘されたこともあることに照らしても、本件番組によって原告の名誉は毀損されたと主張する。しかし、甲第二ないし第二六号証、第五七号証及び原告本人尋問の結果によれば、原告は塾の講師仲間の冊子等で、本件番組の感想や意見を原告に対し送るよう呼びかけたため、それに応じて右意見や感想等が送られてきたこと、送られてきた意見の中には、本件番組の取材方法や構成等に対する批判に過ぎないもの(甲第六ないし第八号証、第一五号証、第一八号証、第一九号証、第二一号証、第二二号証)、Aの妻であった女性が原告であると認識していないと認められるもの(甲第四号証、第一〇号証、第一六号証、第二〇号証、第二三号証)、本件番組を見たときにはAの妻だった女性が原告であるとは認識せず、原告による前記冊子での呼びかけにより初めて原告であるとの認識をもったもの(甲第三号証、第五号証、第一二号証、第一三号証)、原告のことと認識したが、原告に対し同情的なもの(甲第九号証、第一四号証、第一七号証)、原告と一緒にビデオを見て、原告訴訟代理人あてに原告に対する同情的な感想を寄せたもの(甲第一一号証)、原告の姉及び弟とその妻からの同情的な感想を寄せたもの(甲第二四ないし二六号証)がその殆どを占めていることが認められる。また、甲第五七号証及び原告本人尋問の結果によれば、本件番組放送後に原告が経営している塾の生徒が何人かやめたが、これは原告が本件番組のビデオテープの閲覧を求め、あるいは抗議したりするために被告との交渉に時間を割き、塾での指導が至らなくなったことが影響しており、原告の人間性に関わる評価が理由ではないことが認められるのであって、右に指摘したところを総合すれば、本件番組の一般の視聴者が、原告の人間性に問題があるとの印象を抱いたという原告の前記主張は採用することができない。
6 以上のとおり、争点一に関する原告の主張は、理由がない。
二 争点二について
1 離婚をしたとの事実、あるいは離婚の経緯ないし原因に関する事実は、一般に承諾なしにみだりに公表されることを欲しない私生活上の事実であり、いわゆるプライバシーに属する事柄である。そして、私人のプライバシーに属する事柄に関しては、当該私人はこれをみだりに公表されない利益(プライバシーの権利)を有している。このことわりは、公表されたところが真実でなくとも、一般人をして真実であると受け取られる内容をもつものであれば、一般人が当該私人の私生活につき一定の認識を抱き、そのことで当該私人が苦痛を覚える点で共通するから、同様にあてはまるものである。
2 そして、証拠(甲第六三号証、乙第一号証)によれば、本件番組では、冒頭にAの姿が映し出され、「この五〇代の男性は、結婚生活二一年目のある朝、妻から突然『離婚してほしい。』と宣言されました。」とナレーションが入り、再びAが登場した事前収録部分では、A及び長男が素顔のまま映し出され、右冒頭部分と同趣旨の事項の外、四年前にAの妻が長女を連れて家を出て、Aが現在大学生の長男と二人暮らしであること、妻との関係がぎくしゃくしてきたのが八年前、Aが会社で忙しい部署に配属され、帰宅時間が深夜になることが増え始めたころであり、妻がいらだちを募らせAの行動に細かく注文を付けるようになったこと、妻が夫と顔を合わせないような行動をとったこと及びAが庭ばさみを放置したのを妻が厳しく注意したことが、Aの発言やナレーションの内容として放送されていることが認められる。
したがって、本件番組では、原告が離婚した事実及び右離婚に至る過程での夫婦間の出来事という、一般に公表されることを欲しない原告の私事が、仮にその内容が真実でないとしても、一般の視聴者が真実と受け取るようなかたちで公表されており、本件番組は原告のプライバシーに属する事実を公表していると認められる。
なお、被告は、本件番組は具体的な離婚の経緯及び原因を摘示せず、紹介された夫婦間の出来事も日常生活で起こりうる一般的な出来事であって、右出来事を離婚に至った要因として明示していないから、これを公開されることによって原告は心理的不安を覚えるものではなく、また、本件番組を見てAの元の妻が原告であると認識できた者は、原告の離婚の事実は知っていたはずであるとして、本件番組は原告のプライバシーに属する事実を公表していないと主張する。
しかしながら、日常生活で起こりうるような夫婦間の出来事であるからといって、直ちにその出来事が当該夫婦それぞれのプライバシーには属さない事実であって公表してよいとはいえず、とりわけその出来事が、当該夫婦間の関係が悪化してから離婚に至るまでに発生したものであって、視聴者が夫婦関係の悪化を容易に推知し得る出来事であるような場合には、右出来事は通常公表されることを望まない私的事実であって、プライバシーに属することは明らかであり、妻との関係がぎくしゃくしてきた経緯や、妻が些細なことでいら立ちを募らせAの行動に細かな注文をつけるようになったこと、あるいは、Aが庭ばさみを放置したのを妻が厳しく注意したという出来事は、原告のプライバシーに属する事実といえる。そして、本件番組では、A及びその長男の実名をあげておらず、原告については実名や容貌、職業等の情報を開示していないため、本件番組の視聴者の殆どは本件番組で紹介された事例の一つが原告の離婚であると認識しなかったといえるが、A又はその長男の顔を知っていることから、Aの妻が原告であると分かった視聴者もおり、その中にはAと原告とが離婚したことを知らなかった者、あるいは離婚したとの噂は聞いていたが本件番組を見て離婚が真実であったと確信した者がいると推認されるし、右離婚の事実は本件番組を見た者から第三者に容易に伝播する。更に、Aと原告との離婚を知っていた者も、前記の夫婦間の日常生活での出来事については本件番組によって初めて知ったものと推認できるのである。以上のとおり、本件番組は原告のプライバシーに属する事実を公表したといって妨げないから、被告の右主張は採用しない。
3 そこで、更に進んで、本件番組によって被告が原告に関するプライバシーを公表したことが違法か否かについて検討する。
憲法二一条一項が保障する表現の自由は、様々な意見や主張が自由に表明され、議論されることを保障し、国民が多数の意見の中から自分が妥当と考えるものを選択し、あるいは自己の意見を形成するための前提となるものであって、民主制の根幹をなす重要な権利である。同時に、表現の自由は、国民がその受け手として表現行為を享受する自由をも含むものであり、今日では、国民は自己の意見を形成するために必要な情報の多くをマスメディアを通じて取得しているから、マスメディアの表現の自由は、一層重要な意義を有するといえる。とりわけ、テレビ放送は、マスメディアの中で極めて大きな位置を占めるに至っていることは公知であり、放送事業者がテレビ放送を通じて、いかなる事項をいかなる表現方法で表現し、視聴者に伝えるかを決定する自由が尊重されねばならないことはいうまでもない。
他方、私人のプライバシーの権利は、当該私人が私的生活の平穏を保持し、自己の尊厳を維持するために重要な権利であり、それは個人人格の尊厳を基本原理とする憲法一三条によって保障される幸福追求権によって基礎づけられるものである。特に、現代社会においては、マスメディアの発達により、私人の私生活への侵入が頻発するようになり、とりわけテレビというメディアによって私生活上の事実の公表がなされれば、当該事実は即時かつ極めて多数の者に対し伝播することとなるのであって、かかる状況下で、プライバシーの権利の侵害から私人を守るべき要請は強くなっているといえる。
このように、放送事業者が有する表現の自由と、私人の有するプライバシーの権利とは、いずれも重要な権利であり、いずれが優越し、いずれが劣後するともいえない関係にあるというべきところ、放送事業者がその表現行為によって、私人の私生活上の事実を公表すれば、両者の抵触は避けられないことになる。そこで、このような抵触が生じた場合には、両権利の性格、重要性に照らし、具体的事案について、当該表現行為の目的や性格、当該私生活上の事実を公表することの意義や必要性の程度、及び表現方法の相当性等と、当該私人の社会的地位、影響力及び生活状況、右表現行為により公表された私生活上の事実の内容、これにより右私人の受けた不利益の態様、程度等を総合的に考慮して、放送事業者が私人の私生活上の事実の公表を含む表現行為をなす利益と、当該私人の私生活上の事実を公表されない利益とのいずれが優越するかを比較衡量することにより、右表現行為がプライバシーの権利の侵害として違法となるか否かを決すべきである。
これを本件についてみるに、甲第五八号証、第五九号証、第六〇号証の一、二、第六一号証の一、二、乙第二号証、第三号証、第四号証の一ないし一一、証人萩原秀信の証言によると、被告による本件番組は、近年増加している中高年夫婦の離婚、特に妻が夫に対し申し出た離婚を取り上げ、その実態を紹介するとともに、そのような離婚の経験者に離婚に対しての認識や心情を語ってもらうことなどにより、離婚をどのように受け止め、乗り越えていくか、離婚に至らないためにはいかにすべきかを視聴者が考えるための情報を提供することを目的として、四〇代以降の中高年男女向けの番組として制作されたものであることが認められるところ、中高年夫婦の離婚、特に「浮気」や「暴力」といった明確な理由がないままに、妻の側からの申し出による離婚は右視聴者層に現実に生じている問題で、彼らが関心を有する事項であるし、一般的にも、社会の変化を知って婚姻生活のあり方を考え、各人がそれぞれ自己の人生を考えることは有益であるから、そのための素材を提供するという本件番組の目的は社会的な意義を有すると認められる。そして、右の目的を効果的に実現しようとすれば、番組には、中高年に至って離婚を経験した者が登場してその離婚に対する認識や心情を語ることも必要であり、また、離婚の事例を紹介するに際しては、離婚の事実自体や、離婚した夫婦に関する具体的事実(離婚は結婚何年目で、夫婦それぞれ何歳のときか、夫婦それぞれの職業は何か等)、離婚に至る経緯、夫婦間での出来事等もある程度明らかにしなければ、視聴者は当該離婚の実態を把握できず、その事例を通じて一般的に離婚について考えることは困難となる。したがって、本件番組において、原告の離婚の事例も含め、離婚の事実を公表し、さらには当該離婚に至る経緯及びその過程での夫婦間の出来事をある程度公表する必要性は、たやすくこれを認めることができる。また、A及び長男の素顔を映すことについては、これが本件番組で不可欠であったとまではいえないけれども、テレビ放送においては、話者が顔を明らかにせずに語るよりは、顔を画面に映し出して語る方がより迫真性が増し、視聴者にその内容を伝える力をもつと考えられるから、Aの氏名を明らかにしていないこと、原告については氏名等を出さず、顔も映さなかったこと、長男についても氏名は出さず、その素顔が画面に映った時間はわずかであったことを考え併せれば、A及び長男の素顔を映したことをもって、原告の離婚に関する本件番組の表現方法が、前記本件番組の目的を逸脱した不相当なものとまではいえない。
これに対し、一般的に、離婚を経て新たな人生を歩みだした者は、他人に過去の離婚の事実、さらには離婚に至る経緯や婚姻生活上の出来事を知られずに過ごすことを強く望むものであり、甲第四四号証、第五七号証、第六〇号証の一、二、第六一号証の一、二及び原告本人尋問の結果によれば、原告も右のように望んでいたことが認められる。また、原告は、埼玉県坂戸市で学習塾を経営し、その講師をしている女性であり(甲第五七号証、原告本人)、公的立場にある人物や社会的に注目を集める人物に比すれば、その私的生活上の事実の公表を受忍すべき程度は格段に小さい。しかし、前記のとおり、本件番組では原告やAの氏名は伏せられ、原告の顔は出ていないのであって、このような表現行為の態様に照らすと、原告の離婚に関する事実は、視聴者のうち原告とAの双方を知る極く限られた者以外には認識されず、右事実を認識した者からその事実が第三者に伝播することを考慮に入れても、本件番組が放送されたことによって原告のプライバシーに属する事実を認識した人的範囲はそれほど広くないといえる。また、公表された事実のうち、離婚に至る経緯は、夫婦関係が悪化し始めた時期のことや、その原告がいらだちを募らせたこと、原告の言い分をAが理解できなかったこと程度であり、それほど詳細な経緯は明らかにされてはいない。すなわち、本件番組により公表された原告とAとの夫婦間の出来事は、前記のとおり、原告がAと顔を合わせようとしなかったことや、Aが庭ばさみを放置したのを原告が厳しく注意するなど些細なことで立腹したことであり、いずれも夫婦間ではしばしば起こり得る出来事であって、原告とAの生活や離婚の際立った特徴を示す事実ではない。
以上を総合して考慮すれば、本件に関しては、本件番組を通じて、原告の私生活上の事実の公表を含んだ表現行為をなす被告の利益が、原告の私生活上の事実を公表されない利益に優越するというべきであるから、被告の本件番組による原告のプライバシーに属する事実の公表を違法であると評価することはできない。
争点二に関する原告の主張は理由がない。
三 争点三について
前記一、二における各判断のとおり、原告は本件番組によって名誉を毀損されたとはいえず、かつ、違法にプライバシーの権利を侵害されたとはいえない。したがって、原告は放送によって権利を侵害された者に当たるとはいえないから、放送法四条による放送事業者に対する訂正放送を求める司法上の請求が可能かどうかを判断するまでもなく、原告の訂正放送の請求は認められない。
争点三に関する原告の主張も理由がない。
第四 結論
以上の認定及び判断の結果によると、本件番組によって原告の名誉は毀損されておらず、また、原告のプライバシーの権利は違法に侵害されていないのであるから、争点四について検討するまでもなく、原告の本訴請求は、いずれも理由がない。よって、主文のとおり判決する。
別紙一
謝罪放送
平成八年六月八日午前八時三五分放映の「生活ほっとモーニング」「妻からの離縁状、熟年夫婦、突然の別れに戸惑う夫たち」の中で、「突然の別れに戸惑う夫」とサブタイトルされて放送された夫婦の離婚の経緯について、
一、この夫婦は長い結婚生活の経緯の中で、妻の苦渋の選択の上、離婚に至ったものです。
二、事実経過としても、その経緯の中で、元妻は離婚成立のかなり以前から元夫に離婚の申し出をしてきたものですが、元夫はこの問題を直視せず、逃げてきました。そのため離婚成立までに時間がかかってしまいました。
三、放送で、<1>結婚二一年目のある日妻から突然離婚の申し出があり、妻は家を出た<2>夫は妻が離婚を決意し、そのための準備をしていたことに気がつかなかったなど、元夫が右経緯と異なることを話し、ナレーターもそれを前提にして説明し、かつそれを下にコメントされましたが、右は一、二に記したように真実ではありません。
四、この放送により、元妻の離婚に至る苦しみが無視されたのみならず、逆に、「人間性に問題のあるひどい妻」と評価されるような結果を与えてしまいました。
五、このような真実と違う放送になったのは、右放送が元夫だけからしか取材しないという片面取材の結果だけでなしたためです。
六、この放送によって、元妻及びその家族のプライバシーを公表してしまったのみならず、元妻の心情や名誉を傷つけ、関係者にご迷惑をおかけしたことにつき、深く謝罪いたします。
別紙二
訂正放送
平成八年六月八日午前八時三五分放映の「生活ほっとモーニング」「妻からの離縁状、熟年夫婦、突然の別れに戸惑う夫たち」の中で、「突然の別れに戸惑う夫」とサブタイトルされて放送された夫婦について、放送の中で、
危機は突然やってくるとし、結婚二一年目のある朝突然妻から離婚を宣言され、妻は娘を連れて出ていってしまい、突然の別れに戸惑ったとのある熟年男性の離婚について紹介した。この夫婦は近所でも評判の仲の良い夫婦であった。八年前に仕事の関係で夫の帰りが遅くなるようになってから、夫婦の仲がギクシャクした。夫は妻にきちんと説明もし説得もしたが、妻は苛立ちを募らせるばかりだった。何回も話し合いをしたが、妻の言い分に深い意味を感じず、メッセージに重大性を感じなかった。妻は夫の知らない間に離婚の準備を進めていて、この男性が気付ついた時には妻の離婚のシナリオができていた。この男性は妻の本当の気持ちが分からないまま離婚に同意した。妻のメッセージに深い意味を感じなかったことが夫婦仲を悪化させた。
という趣旨で放送し、当日のゲストコメンターからは、この妻について、
<1>シグナルを出している人がそれをシグナルと気がついているか、思っているか疑問である。
<2>専業主婦の人って世の中、他人の生き方が良く見える。錯覚を起こしている。
<3>安定した生活が不満でマグマが溜ってきただけで、本人自身はどうしたいかわからないでいるだろう。
<4>はさみだしただけ、そんな八つ当たり、そんなけんかするなんておそろしい世界。
<5>理由など何もない人なんではないか。
<6>彼女自身がどうかわからないが、一般論でいって分からないですよ。
等と放送しました。
しかし、この夫婦は一〇年前から妻は夫に離婚の申し出を何回もしていました。夫もそれに対応する行動をとったりしていました。このように、夫は妻からの離婚の申し出を十分認識して数年を生活していたものです。しかし夫はそれに真摯に向き合おうとせず離婚の話からは逃げるばかりでした。妻は苦渋の選択の上、離婚調停の申し立てをし、その後家を出たのでした。離婚調停は約一年を費やしましたが、夫は離婚に同意して離婚が成立しました。
また、妻は専業主婦ではなく結婚以来ずっと仕事をして生活を支えた女性でした。
この夫婦は生きていくうえでの物の考え方や価値観の相違が離婚の原因になった夫婦でありました。
このような真実と違う放送になったのは、当局が妻側への取材をしなかったためで、真実を確認しないまま放送をしてしまったためです。
この男性の素顔を出したまま放送したことで、元妻が特定されてしまったり、元妻の離婚に至る苦しみが無視されたのみならず、逆に、「人間性に問題のあるひどい妻」と評価されるような結果を生んでしまいました。
元妻及びその家族のプライバシーを公表してしまったのみならず、元妻の心情や名誉を傷つけ、関係者にご迷惑をおかけしてしまったことにつき、深く謝罪致します。
(別紙三省略)